愛読していた小説が映画化され、友人と映画館に見に行ったとする。原作を読んでいない友人は涙を流さんばかりに感激している。しかし、映画に感激しながらも、原作と違うぞ、と争っている自分がいる。私は今それと同じような葛藤の中にいる。
トラネキサム酸(TXA)の産科出血などへの使用を全世界に普及することを目的に映画は作られた。その今日に至るまでの60余年について、情報の取捨選択が行われ、全体をわかりやすくするために事実と違うと認識されかねない記載が生まれていたとしても、それはやむをえないことで、そのために映画の評価が下がることはないのであろう。言いかえれば、TXAがIan Robertsらに出会うまでの半世紀についての追加情報を提供していくのは、映画制作者ではなく、それを知っている他の者の仕事であろう。
筆者らを含むこのHPの責任者は、当時を経験した者ではないが、とりあえず、岡本彰祐・歌子の著書や彼らから直接聞いた話をたどってこの小文を綴る。その時代を直に知っておられる諸先輩によりその訂正と追記を書き足していただけることを期待して。